、また尾鰭《おひれ》について出しゃばり、浪花節を下品だとけなしてから、子供の頃より好きだった歌舞伎《かぶき》を熱心に賞《ほ》めると、しとやかに坐っていた奥《おく》さんが、さも感に堪《た》えたと言わぬばかりに、「そのお若さでお芝居《しばい》がお好きとはお珍《めずら》しい。御感心ですこと」とお世辞を言ってくれるので、ぼくは一層、有頂天になるのでした。お嬢さんはN女子大の国文科を出たとかで、芝居の話も詳《くわ》しく、知ったか振りをしたぼくが南北《なんぼく》、五瓶《ごへい》、正三、治助《じすけ》などという昔《むかし》の作者達の比較《ひかく》論をするのに、上手な合槌《あいづち》を打ってくれ、ぼくは今夜は正《まさ》に自分の独擅場《どくせんじょう》だなと得意な気がして、たまらなく嬉《うれ》しかったのです。
沢村さん始め皆は、いつになくお喋《しゃべ》りなぼくを呆《あき》れてみつめ(大坂《ダイハン》が、エヘ)とさも軽蔑《けいべつ》したような表情をするのでしたが、その夜は、明らかに教養でみんなを圧倒《あっとう》した態《てい》なのも嬉しく、なおも図にのって、お嬢さんに媚《こ》びるように、「吉右衛門《きちえ
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