》いで眼をそらした。
 その癖《くせ》、そのときでも、あなたが見えなくなると、バッジの件を考える苦しさよりもあなたを想う甘さに惹《ひ》かれるのでした。
 そうしたときでも、いつもあなたには逢いたいような、逢いたくないような気持が、例《たと》えば、『逢わぬは逢うにいやまさる』といった都々逸《どどいつ》の文句のように錯綜《さくそう》して、あなたを慕《した》っていたのです。
 マウントロオで、ケエブルカアから降りて村川と二人、養狐場《ようこじょう》のほうへ行きかけると、すれちがった若い亜米利加娘《アメリカむすめ》が二人、とつぜんぼく達を呼びとめ、ぼくの持っていたカメラで撮《うつ》してくれというのです。たいへん朗《ほが》らかな、可愛《かわい》い娘さん達なので、喜んで、一緒に写真をとったり名刺《めいし》を貰《もら》ったり、手振《てぶ》り身振りで会話をしたりしました。そうしたとき、奇妙《きみょう》に強く、想われるのはやはりあなたの面影《おもかげ》でした。

 ホワイトポイントヘ魚釣《さかなつ》りにも行きましたが、ぼくは釣なぞしたことがないので、無闇《むやみ》やたらにそこいら辺を歩きまわっただけでし
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