ぼくはサイクロレエンから降りたった後、なにもかもが飛び去ったあとのような心地よさで独り、岸にたち、潮風に、髪の毛をなぶらせながら、青黒くひかる海を、虚心《きょしん》に、眺《なが》めていました。
その後、羅府《ロスアンゼルス》動物園へ、選手一同|赴《おもむ》いた折にも、巨《おお》きな象の二三頭が、放し飼《が》いになって自由に散歩しているあいだを、内田さんと手を繋《つな》ぎ歩いているあなたの姿をお見掛《みか》けしたことがあります。
その朝、ぼくはデレゲェションバッジをなくなし、皆《みんな》にまた口汚《くちぎた》なくいわれる疑懼《ぎく》と、ひとつは日頃嘲弄《ひごろちょうろう》される復讐《ふくしゅう》の気持もあって、実に男らしくないことですが、手近にあった東海さんの上着からバッジを盗《ぬす》み、東海さんの困却《こんきゃく》をまのあたりみせられ、些《いささ》か後悔《こうかい》の念に駆《か》られ、良心の苛責《かしゃく》もひどかったときなので、ともすれば見失いそうな自分の姿を掴《つか》まえる為《ため》、すっかり茫然《ぼうぜん》としていて、近くにあった、あなたの姿にも、痛いものをみる想《おも
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