に流れきこえてきました。色男の有沢さんの声です。実際、声でもたてねばやり切れぬ、気持でした。車はあるいは急角度に横にまがり斜《なな》めにおち、ガッタンガッタンと、登ったかとおもえば、また陥ちる、頭の髪《かみ》が、風にふかれて舞《ま》い上がるのも、恐怖《きょうふ》に追われ逆立つおもいでした。
 もう後では、目をつむってこらえている内、するすると竜の口から再び吐《は》きだされて、おしまいでした。降りたった六人は、今更《いまさら》のように聳《そび》えたつサイクロレエンを眺《なが》めて、感にたえた顔をしていましたが、有沢さんの悲鳴を誰《だれ》かが言いだすと、途端《とたん》に、みんなゲラゲラと大笑いがとまりませんでした。
 それまでに、サイクロレエンに乗っていた酔《よ》っぱらいの水兵が、滑走《かっそう》の途中、立ち上がり、横木にはさまれて頸《くび》を折ったとか、赤ん坊を抱《だ》いた若妻が滑りおちる恐怖にたえかね、子供を手放したので、赤ん坊がおっこち頭を割って死んだとか、そんな話もきかされていたのですが、自分が実際乗ってみると、そんな嘘《うそ》のような話も真実におもわれる物凄《ものすご》さでした。
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