人形は踊りを止《や》め、バスの後窓に凭れたまま、小さくなり、見えなくなって行くのでした。
ベニスに着いてから、竜《ドラゴン》の口が出入り道になっているサイクロレエンに乗りました。
トロッコ様の箱車《はこぐるま》の座席が三段にわけてあり、まえに豪傑《ごうけつ》の虎さんと色男の有沢さんが乗り、真中にぼくと清さん、うしろに柴山と村川が乗りました。前に横たえてある棒をしっかり握《にぎ》っているうち、車は滑《すべ》りだし、深い穴のなかに陥《お》ちてゆきます。再び、登りだしたときは、背も反《そ》るような急角度の勾配《こうばい》でした。あれよ、あれよという間に、いちばん頂辺《てっぺん》にまで出ると、遥《はる》かサンピイドロの海が眼下にかすみ、沖にはキャバレエになっているという豪華船《ごうかせん》――当時は禁酒法《ドライ》でしたから――が豆《まめ》のように、ちいさい。が次の瞬間《しゅんかん》に、車は急転直下、直角にちかい絶壁《ぜっぺき》を、素晴しい速力ですべり落ちてきます。背中を丸くして、横棒にかじりついていても、腰《こし》が浮くすさまじさです。と、すぐ前から、「ヒェーッ」という金属的な悲鳴が、風
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