まり、みんながぞろぞろ降りだしたのをみたとき、ぼくは顔をまともに合せたら、あなたが、どんな表情になるか、眼に見える心地がして、そればかりが気懸《きがか》りになりました。
 果して、あなたはピエロ人形を片手に、踊らせながら、やはり、泣き笑いみたいな顔で、ぼくのほうをちらっと見たが、ぼくが笑いもせず、反《かえ》って視線のやり場に困った鬱陶《うっとう》しい顔をしているのをみると、あなたは、面を伏《ふ》せ、くるりとうしろを向き、ひとりで、バスに乗ってしまった。車が出て、背後の硝子窓に凭《もた》れかかった人形は、あなたの手と一緒《いっしょ》に再び踊りだした。しかし、顔をみせない、あなたが、友達と笑いあっているのか、ひょっとしたら、泣いて慰《なぐさ》められているのか、想像のつかないまま、あなたの肩《かた》は震《ふる》えていました。
 ぼくは一体、人目を憚《はば》かったのか、それともそうしたあなたが嫌《きら》いだったのか、それも判《わか》らぬ複雑|奇怪《きかい》な気持で、どうでもなれとバスに揺《ゆ》られていました。気の弱い、我儘《わがまま》なぼくも厭《いや》だったし、あなたも厭だった。
 そうして、
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