投げキッスと、三拍子《さんびょうし》、続けてやられたとき、その濡《ぬ》れたような漆黒《しっこく》の瞳が、瞬間《しゅんかん》、妖《あや》しくうるんで光るばかりに眩《まば》ゆく、ぼくは前後不覚の酔《よ》い心地でした。
 そのとき、やはり、心持ち唇《くち》をあけてみていた、あなたの小さい黄色い顔が、ちらっとぼくの網膜《もうまく》を掠《かす》めました。

 帰りには、チャイニイズ・グロオマン劇場で、オニイルの奇妙な幕間狂言《ストレンジ・インタアルウド》[#「奇妙な幕間狂言」にルビ]という映画の封切《ふうきり》に招待されました。その時はもう、接吻の長さだけ気になる、ぼくは、痴《うつ》けさでした。

     十九

 また暫《しばら》くして、日本選手一同が揃《そろ》って、ベニスという下町へ遊びに行った日がありました。附近《ふきん》で、いちばん大きなダウンタアオンで、途中《とちゅう》の風光の美しさも類のないものでした。
 碧《あお》い海に沿った、遠くに緑の半島が霞《かす》み、近くには赤い屋根のバンガロオが、処々《ところどころ》に、点在する白楊《はくよう》の並木路《なみきみち》を、曲りまわって行きま
前へ 次へ
全188ページ中128ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
田中 英光 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング