》に努めるなど、その光景は惨憺《さんたん》たるものがあった。選手は幸いにして、数分後には、気を取り直しボオトを引き上げ、更衣所《こういじょ》に帰るや、一同その場に打ち倒《たお》れ、語るに言葉なく、此所《ここ》にも綴《つづ》るレギヤツタ血涙史《けつるいし》の一ペエジを閉じた※[#二重かっこ閉じ]
ボオトを漕ぐ苦しさについて、ぼくは、敢《あえ》て書こうとは思いません。漕いだものには書かなくても判り、漕がないものには書いても判らぬだろうと思われるからです。ただ、それほど、言語を絶した苦しさがあるものと思って下さい。
あのとき、観覧席《かんらんせき》の一隅《いちぐう》に、日本女子選手の娘達《むすめたち》が、純白のスカアトに、紫紺《しこん》のブレザァコオトを着て、日の丸をうち振り、声援していてくれた、と後でききました。しかし、ぼくは、そのとき、あなたの姿なぞ求めようともしない、口惜《くや》しさで負けたレエスに興奮していた。
負けたという実感より、気持の上では、漕ぎたりない無念さで、更衣所にひき揚《あ》げてきたとき、いちばん若いKOの上原が、ユニホォムを脱《ぬ》ぎかけ、ふいと、堰《せき》を
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