《むち》から、いつも庇《かば》ってくれるコオチャアやO・B達に対しても、ぼくの過失はなお済まない気がします。
悶《もだ》え悶え、ぼくは手摺《てすり》によりかかりました。其処《そこ》は三階、下はコンクリイトの土間です。飛び降りれば、それでお終《しま》い。思い切って、ぼくは、頭をまえに突き出しました。ちょうど手摺が腰《こし》の辺に、あたります。離《はな》れかかった足指には、力が一杯《いっぱい》、入っています。「神様!」ぼくは泣いていたかもしれません。しかし、その瞬間《しゅんかん》、ぼくが唾《つば》をすると、それは落ちてから水溜《みずたま》りでもあったのでしょう。ボチャンという、微《かす》かな音がしました。すると、ぼくには、不意と、なにか死ぬのが莫迦々々《ばかばか》しくなり、殊《こと》に、死ぬまでの痛さが身に沁《し》みておもわれ、いそいで、足をバタつかせ、圧迫されていた腸の辺《あた》りを、まえに戻《もど》しました。いま考えると、可笑しいのですが、そのときは満天の星、銀と輝く、美しい夜空のもとで、ほんとに困って死にたかった。
そんな簡単に、自殺をしようと考えるのには、多分、耽読《たんどく》
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