えていましたが、なにを写す元気もなく、ぼんやりしている処《ところ》を、あべこべに何度も写されたりしました。
結局、朝から夕方まで、ぼんやり坐《すわ》ったり歩いたりしただけで、帰ってきました。帰ってからポケットにふと、手を入れると、全財産百五十弗ばかりを入れた蟇口《がまぐち》がありません。
ぼくは忽《たちま》ち逆上して、身体《からだ》中や其処《そこ》らを探しまわった揚句《あげく》の果は、恐《おそ》らく、ゴルフ場で落したに相違《そうい》ないときめてしまいました。百五十弗は、当時の為替《かわせ》率で、四百五十円位にあたります。素人《しろうと》下宿をして働いている、母の粒々辛苦《りゅうりゅうしんく》の金とおもえば居ても立ってもおられず、明朝、未《ま》だ皆の起きないうちに抜《ぬ》けだし、ゴルフ場まで探しに行こうと思いました。
翌朝、未明に合宿を出ると、すぐ表で、ぱったり出逢《であ》ったのは、近所の、小さい友達で、リンキイ君、ぼく達がリンカアンと綽名《あだな》をつけた少年でした。ぼくをみると、鳶色《とびいろ》の瞳《ひとみ》を輝《かがや》かせ、「どうしたの《ホスマラア》[#「どうしたの」にルビ
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