わ。いやですわ』と秋子は叫《さけ》びながら、坂本の胸を両手でおしつけた。秋子の薫《かお》るような呼吸が感ぜられ、坂本は悩《なや》ましいほど幸福な気がした。
『今ではいけないのでしょうか』
『いいえ、日本にお帰りになってから』」
 あえて、ぼくは神聖な愛情とは呼びません。しかし、子供めいたお互《たが》いの友情を、そんなふうに歪曲《わいきょく》して弄《もてあそ》ばれることは、我慢《がまん》できない腹立たしさでした。

     十五

 翌日、練習休みで、近くのゴルフリンクヘ一同でピクニックに行きました。
 前夜、眠《ねむ》られぬ頭は重く、涯《はて》しないみどりの芝生《しばふ》に、初夏の陽《ひ》の燦然《さんぜん》たる風景も、眼に痛いおもいでした。
 東海さんが、顔|馴染《なじみ》のフォオド会社の肥《ふと》った紳士《しんし》に、ゴルフを教えてもらい、なんども空振《からぶ》りをして、地面を叩《たた》く恰好《かっこう》を面白《おもしろ》がって、みんな笑い崩《くず》れていましたが、ぼくにはつまらなかった。
 みんな、写真機を買いたてで、ぼくも金十八|弗也《ドルなり》のイイストマンを大切に抱《かか》
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