の子供達と見物した帰りに、スマックなぞ噛《かじ》りに立寄るくらいでしたが、KOの柴山や上原などは、よくかよっていて行けばいつも顔を合せるほどでした。ことに美少年の上原などは、ナンシイ嬢《じょう》と仲が良く、いつもスタンドに肘《ひじ》つきあっては話を交していました。
ある日の事、一緒《いっしょ》に近所の床屋《とこや》まできた柴山と肩《かた》をくんで、その店に入って行くと、上原がもう来ていて、娘さんとなにか笑い話をしています。ぼく達は隅《すみ》っこでチョコレエトクリイムを貰《もら》い、二人でぼそぼそ嘗《な》めているとき、入口のドアを荒々《あらあら》しく押《お》して一人のアメリカの大学生が入ってきて、なにも註文《ちゅうもん》せず、スタンドの前に立ち、腕《うで》を組んだまま、じっと上原とナンシイ嬢の様子をみつめていました。
やがて上原の傍《そば》につかつかと立ち寄り、彼の肩を押えて、早口になにか言いだします。素破《すわ》とおどろき柴山と立ち上がろうとしましたが、意外にも大学生は、和《なご》やかな表情で、上原にドライブをしないかと誘《さそ》っています。上原はぼく達に一緒に来るかい、と聞き、ぼく達が承諾《しょうだく》すると、それではと、大学生に、行く旨《むね》を返事していました。
そこで四人が、表においてあった大学生のセダンに乗りこむと、彼《かれ》は、ロングビイチの海岸まで車を走らせて行きました。賑《にぎ》やかで面白《おもしろ》そうな海水浴場のほうは素通りにして、荒涼《こうりょう》とした砂っ原に降りると、大学生は上原の腕をとって、浪打際《なみうちぎわ》のほうへゆきます。さっきから大学生の上原をみる眼が少し変ってるなと思っていたら、大学生はやにわに、上半身、真裸《まっぱだか》になって、上原に角力《すもう》をいどみかけるのです。上原は、はにかんだような微笑《ほほえ》みを浮《うか》べながらも、シャツを脱《ぬ》ぎ裸になりました。
ナルシサスもかくやと思われる美しい顔立ちに十九歳の若々しい肉体は、アポロのように見事に発育して引き締《しま》っています。大学生も毛深くて逞《たくま》しいヘラクレスみたいな身体をしていましたが、上原のすべすべした小麦色の皮膚《ひふ》を愛情のこもった眼付で、撫《な》でまわしていました。
二人の相撲《すもう》は力を入れ、むきになっている癖《くせ》に、時々いかにもこそばゆいという風に身悶《みもだ》えしてキャッキャッと笑い興じていました。汗《あせ》ばんで転がるたびに砂|塗《まみ》れになってゆく、上原の肉体も、額に髪が絡《から》みついた顔も、だんだん紅潮してゆくに従って、筋肉の線に、膨《ふく》らみもでて来て美しく、ぼく達でさえ些《いささ》か色情的に悩《なや》ましさを覚えたほどです。しかし何時迄《いつまで》もみているのは莫迦々々《ばかばか》しくなって、ぼくと柴山はその場をはずし、なんとなくそこらを散歩してから歩いて帰りました。
遅《おそ》く夕方になってから戻《もど》ってきた上原が、その大学生の着ていたレザァコオトを貰ったりしているので、ぼくは人間の愛欲の複雑さがちらっと判《わか》った気がしました。
帰朝する前日でしたか、ロオタリイ倶楽部《クラブ》での、鐘《ベル》ばかり鳴らしてはその度《たび》に立ったり坐《すわ》ったりする学者ばかりのしかつめらしい招待会から帰ってくると、在留|邦人《ほうじん》の歓送会が、夕方から都ホテルであるとのことで、出迎《でむか》えの自動車も来ていて、直《す》ぐとんで行ったのでした。
男はタキシイド、女は紋服《もんぷく》かイブニング・ドレスといった豪奢《ごうしゃ》な宴会《えんかい》で、カルホルニア一流の邦人名士の御接待でした。ぼくの坐った卓子《テエブル》は、沢村、松山、虎さんとぼくの四人で、接待して下さる邦人のほうは、立派な御主人夫妻と上品なお祖母様《ばあさま》、それに二十一になる美しいお嬢さんの御一家でした。
話をしているうちに偶然《ぐうぜん》、そのお嬢さんがぼくの育った鎌倉《かまくら》の稲村《いなむら》ケ崎《さき》につい昨年|迄《まで》、おられたことが解《わか》り、二人の間に、七里ケ浜や極楽寺《ごくらくじ》辺《あた》りの景色や土地の人の噂《うわさ》などがはずみ、ぼくは浮々《うきうき》と愉《たの》しかったのです。その内に始まった饗応《きょうおう》の演芸が、いかにも亜米利加三界まで流れてきたという感じの浪花節《なにわぶし》で、虎髭《とらひげ》を生《はや》した語り手が苦しそうに見えるまで面を歪《ゆが》めて水戸黄門様の声を絞《しぼ》りだすのに、御祖母様は顔を顰《しか》め、「妾《わたし》はどうしても、浪花節は煩《うる》さいばかりで嫌《きら》いですよ」といわれる。お嬢さんとの会話で気が浮立っていたぼくは
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