。おまけに、あなた達はパンツ一枚なのですから、太股《ふともも》の紅潮した筋肉が張りきって、プリプリ律動するのがみえ、ぼくはすっかり駄目《だめ》になり、ほうほうの態《てい》で、退却《たいきゃく》したことがあります。
 午後は、ぼく達の棒引が終ってから、あなたがたの練習をみるのが、また楽しみでした。
 殊《こと》に、あなたのアマゾンヌの様な、トレエニング・パンツの姿が、A甲板の端から此方まで、風をきって疾走《しっそう》してくる。それも、ひどく真剣な顔が汗みどろになっているのが、一種異様な美しさでした。
(視《み》よ、わが愛する者の姿みゆ。視よ、山をとび、丘《おか》を躍《おど》りこえ来る。わが愛する者は※[#「※」は「けものへん」の右に「章」、31−11]《しか》のごとく、また小鹿のごとし)
 紫紺《しこん》のセエタアの胸高いあたりに、紅《あか》く、Nippon と縫《ぬ》いとりし、踝《くるぶし》まで同じ色のパンツをはいて、足音をきこえぬくらいの速さで、ゴオルに躍りこむ。と、すこし離《はな》れている、ぼくにさえ聞えるほどの激《はげ》しい動悸《どうき》、粒々《つぶつぶ》の汗が、小麦色に陽焼《ひや》けした、豊かな頬《ほお》を滴《したた》り、黒いリボンで結んだ、髪の乱れが、頸《くび》すじに、汗に濡《ぬ》れ、纏《まつわ》りついているのを、無造作にかきあげる。
 七番の坂本さんが、ぼくの肩《かた》を叩いて、「すごいなア」という。あなたの真剣さに、感動したのでしょう。「ええ」と領《うなず》きながら、ぼくはふいと目頭が熱くなったのに、自分で驚《おどろ》き、汗を拭《ぬぐ》うふりをすると、慌《あわ》てて船室に駆け降りました。
 舷《ふなばた》では、槍《やり》の丹智さんが、大洋にむかって、紐《ひも》をつけた、槍を投げています。ブンと風をきり、五十|米《メエトル》も海にむかって、突き刺さって行く槍の穂先《ほさ》きが、波に墜《お》ちるとき、キラキラッと陽に眩《くる》めくのが、素晴《すばら》しい。と、上の甲板からは、ダイビングの女子選手が、胴のまわりを、吊鐶《つりわ》で押《おさ》えたまま、空中に、さッと飛びこむ。アクロバットなどより真面目《まじめ》な美しさです。
 と、また、男達のほうでも、ボクサアは、喰《く》いつきそうな形相で、サンドバッグを叩いていますし、レスラアは、筋肉の塊《かたま》りにみえ
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