ネたにはお逢《あ》いしたくない。
 あのとき、帰りの船であなたがぼくの啄木歌集の余白に書いて下さった言葉を覚えています。
 ※[#二重かっこ開く]往《い》きの船ではずいぶん面白《おもしろ》く御一緒《ごいっしょ》に遊んで頂きましたわ。真珠《しんじゅ》の夢《ゆめ》のように一生忘れられない思い出になりましょう。日本に帰りましたら是非お遊びにいらして下さい。寄宿舎の豚小屋《ぶたごや》に※[#二重かっこ閉じ]
 そして、その頁《ペエジ》のすぐ裏には、レスラア某氏《ぼうし》の書いてくれたこんな文句がありました。
※[#二重かっこ開く]世界は酒と女と金※[#二重かっこ閉じ]
 横浜|沖《おき》で歓迎船が見えだしてから、ぼくは慌《あわ》てて、あなたの写真を内田さんと一緒に撮《と》らせて貰《もら》いました。あなたの衣裳《いしょう》も顔も皺《しわ》くちゃにレンズのなかにぼけて写っていました。あなたの顔は往きの船の健康さにひきかえ、憂《うれ》いの影《かげ》で深く曇《くも》っていました。ぼくはそれをぼくへの愛情の為《ため》かと手前勝手に解釈していたのです。
 帰朝して三日目、高知県主催の歓迎会が丸の内の中央会館でありました。あなたも同じ高知県なので、勿論《もちろん》お逢いできると思い、慌てて道を歩き交通|巡査《じゅんさ》に叱《しか》られるほどの興奮の仕方で出席しました。しかし、面窶《おもやつ》れしているあなたにお逢いしても、やはりなんにも話せませんでした。
 只《ただ》、エレベエタアを一緒の箱《はこ》で、身体《からだ》が触《ふ》れ合って降りたときと、挨拶《あいさつ》に壇上《だんじょう》に登る際、降りて来たあなたと擦《す》れちがったときとが、限りなく苦しかった。
 帰って床《とこ》に入り目をつむっていると、あなたが船のなかでボクサアのIさんとピンポンをしているときの姿態が浮《うか》んできた。あなたはとてもピンポンが上手で、それだけ汗塗《あせまみ》れになってやっていた。薄《うす》い肌着《はだぎ》がぴったりくっつき、あなたの肉体の線が露《あら》わにみえていました。
 そのうちどうした機勢《はずみ》か、Iさんの強打した直球が、あなたのスカアトから股の間に飛びこんだら、皆もドッと笑ったけれど、あなただけいつまでも体をつぼめて、ヒステルカルに癇高《かんだか》く笑い続けていました。
 笑いが止まるとあな
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