ヘ恥《はず》かしいねエ」とかなんとか同じ文句を繰返《くりかえ》しているうち、監督《かんとく》のHさんから肩《かた》を叩《たた》かれ、「どうも君みたいな酒豪《しゅごう》にはホッケエ部で、太刀打《たちうち》できるものがいないから、頼《たの》むから帰って寝《ね》てくれよ」とにこやかに訓《さと》され、「はい、はい」と素直に立ち上がると、自分の部屋の前まで来ましたが、ちょうど同室の沢村さん、松山さんとそこで一緒《いっしょ》になりました。
「大坂《ダイハン》、いい機嫌《きげん》だな」とか、ひやかされてぼくは嬉《うれ》しそうに、「えエ、えエ」と首を振っていましたが、松山さんが部屋に入ったあと、沢村さんがぼくの首を抱《だ》き、覗《のぞ》きこむようにして、「ぼんち、熊本さんは」と囁《ささや》くのが、てっきり、あなたの醜聞の一件を指しているのだと思うと、ぼくには、これ迄《まで》のこの人達の悪意が一ペんに想《おも》い出され、気のついたときには、もう沢村さんの身体《からだ》を壁《かべ》に押《お》しつけ、ぎりぎり憎悪《ぞうお》に歪《ゆが》んだ眼で、彼《かれ》の瞳《ひとみ》を睨《にら》みつけていました。
瞬間《しゅんかん》、ア、しまった、と思った時にはすでに遅《おそ》く、その隙《すき》に立ち直った沢村さんが、「貴様やる気だな」と叫《さけ》びざま、ぼくを突《つ》きとばすと、直《す》ぐのしかかって来て、ぼくの頸《くび》を絞《し》めつけました。
そのとき松山さんが部屋から出て来て、この有様をみるなり、「おい、沢村よせよ、大坂《ダイハン》はだいぶ酔っているぜ」と止めてくれましたが、沢村さんは一度手をはなしたかとおもうと、今度はなんともいえぬ意地悪い眼付で、まじまじぼくを見詰《みつ》めているうち、不意に、平手で、力|一杯《いっぱい》、ぼくの横ッ面《つら》を張った。ぼくはことさら撲《なぐ》られるのも感じないほど酔っている風に装《よそお》い、唇《くちびる》を開けてフラフラして見せているのに、沢村さんは、続けて、ぼくの右頬《みぎほお》から左頬ヘと、びんたを喰《く》わせ、松山さんを顧《かえり》みてはニヤニヤ笑い、「こら、大坂《ダイハン》、これでもか。これでもか」 といくつも撲った。
二十七
そうして、横浜に着きました。
朝靄《あさもや》を、微風《びふう》が吹《ふ》いて、さざら波のたった海面
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