せるほどの愛欲生活がギリシャの牧童の恋物語を想わせるほど美しくひたむきなものと思われた。ぼくはリエと死ぬ迄、一緒にいたかった。だが、それでいて、ぼくは自分の不幸な四人の子供たちに、とっても「さようなら」をいえる勇気もない。
二つの愛するものの間で引裂かれる苦悩。アドルム中毒。リエも子供たちもふり棄てる為の放浪。ぼくはこの為、精神病院にさえ入った。リエの生命を自分のものとしたい不逞なメチャクチャな願いから、アドルムと酒に酔い、一日、兇器をとりリエの下腹さえ刺した。リエの目にみえぬ心の傷や身体の汚れさえ、できれば拭いさりたいといたわり大切にしてきたぼくが、どうして現実にリエの玉の肌を傷つける愚行を演じたものか。神聖冒涜の近代人の病的な倒錯心理かもしれぬ。春婦の肉体を神聖と思いこんだのも既に倒錯心理とすれば、二重、三重のぼくの偏執や倒錯。
この為、ぼくも警察に約二週間、精神病院に約二カ月ほど入れられる。リエはその間、外科病院に入院し、辛うじて生命を取りとめた。ぼくは兇行時の意識喪失状態に刑法の責任なしと認められ、不起訴になり、リエより約一月早く、精神病院から出られた。その間、ぼくの家庭は
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