熊《おすぐま》に出会ったのだ。それはとても大きな熊だった」
「あんな大きなのはめったにないよ」
バウンがそう相鎚《あいづち》をうって、あとを自分で話しつづけました。
「だが熊は向かって来る気はなかった。むきをかえて、氷の上を静かに向こうへいっちまおうとしたんだからな。わしらはこの様子を岸の岩かげから見ていたんだ。熊はわしらの方へやって来る、キーシュはその後へくっついて来るのだが、ちっとも怖がっている様子はない。それどころか、あの子は熊のうしろからとてつもなく大きな声をしてわめき立てるんだ。腕をぐるぐる振りまわして、やたらに騒ぎたてたもんだ。そこで、熊もとうとうおこっちまって、ぬっとあとあしで立ち上《あが》った。ところがキーシュはぐんぐん熊のそばまで歩いてゆくじゃないか」
あとをビムが引き取りました。
「構《かま》わずそばまで歩いてゆく。そこで熊がキーシュにつかみかかろうとする、するとあの子はすばやく逃げ出した。ところが逃げる時小さな丸い球《たま》を一つ、ぽとりと氷の上に落したものだ。熊は立ちどまってそいつの匂《におい》をかいで、それから、そいつをぐっと呑んじまった。キーシュは逃げ出
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