た。こっちへ来るかと思うとあっちへゆく。同じ道をいったり来たり、ぐるぐる輪《わ》をかいて歩きまわったりするんだ。そんなことをしているうちに、とうとうはじめにキーシュに出会った場所の近くへかえって来たもんだ。この時にはもう、熊は這《は》うことも出来ないのだ。そこでキーシュは熊のそばへ寄って、ずぶりと槍《やり》で突き殺してしまったんだ」
「それからどうした」
せきこんで誰かが聞きました。
「わしらは、キーシュが熊の皮を剥《は》いでいるのをほっといて、この話をしようと思って駈《か》けもどって来たんだよ」
六
その日の午後、女どもが肉を運んで来る間に、男たちは寄合《よりあ》って相談していました。キーシュが家へ帰るとすぐ使《つかい》が来て、寄合の席へ出て来いといういいつけでした。だが彼は、自分はお腹がすいて疲れている、それに自分の雪小屋は大きくて居心地がよいし、大勢の人を入れることが出来るのだ、という返事を持たせて使をかえしてやりました。
寄合の席にいた男たちは、どうかしてほんとのところが知りたいという気持で一ぱいだったので、それをきくと一斉《いっせい》に立ちあがり、残らずキーシュ
前へ
次へ
全16ページ中13ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
吉田 甲子太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング