ことはないか、と一座を見まわした時に、何と思ったか子供のキーシュがぬっと立ちあがりました。そして彼は、この間自分とお母さんのところへ分けてもらった肉は、硬《こわ》くて古くて骨だらけだった。これからはもっとちゃんとした肉をもらいたいものだと、おそれげもなく文句をつけました。
 彼は自分の力で自分の権利を守ろうと決心したのです。しかし、皆は子供のくせにと思って、キーシュの生意気《なまいき》なのにあきれかえりました。そこで、これからおとなの寄合に出て、生意気な口をきくとなぐるぞとおどかしつけて、彼を坐らせようとしました。
 ところが彼はおどりあがって、皆が頼《たの》みに来るまでは、もう二度と寄合へ出て口なんかきいてやらないぞ、と負けずにどなり返《かえ》しました。その上、これから僕は僕だけで狩《かり》をする、僕の殺して来た獣の肉はえこひいき[#「えこひいき」に傍点]なしに皆に分けてもらいたい、村の弱い人たちに、弱いからというので、ひどい分け方をするようなことをしてもらいたくない、といばりちらしました。それから小さな肩をそびやかして、その寄合のある雪小屋から出てゆきました。
 おとなたちはうしろ
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