るだけの養生《ようじょう》をさせて上げて下さい」
平吉は黙っていつまでも息子の顔を見ていた。
翌日から一男は、誰の手も煩《わずら》わさずに母親の看護を一人で引受けた。病人のある家とも見えず、明るい笑声が絶えなかった。そのためかどうか、おそらく一男が帰って来たという安心のせいもあったのだろう、母の病気はほんの少しずつよくなって行くように見えた。
しかし、石山一家は、いつまでこうしているわけには行かなかった。すみ[#「すみ」に傍点]が工場で稼《かせ》いで来る金が入らなくなった。一男の送金も来なくなったわけだ。その上、病人のために不断よりは余計に費用がかさむのだ。
ある晩、子供たちが六畳の方で寝静まった時、平吉と一男とは長いこと相談した。いま一男が船へ乗って海へ出るようなことをすれば、また病人はわるくなるにきまっている。だが一男が今のように看護婦の代りをしていたのでは、病人の薬代は愚《おろ》か、米代もつづかないのだ。
翌日一男は父親について、彼が今働いている建築場へ行って見ることになったのであった。
三
平吉は一男を板張《いたばり》の外《はず》れへ連《つ》れて行って、監督
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