メートルも離れた空間だ。足場《あしば》がわりに鉄骨の梁《はり》の上に懸け渡しただけの何枚かの板の上に立っているのだった。下を覗《のぞ》けば、地下室をつくるために掘りさげられた地底まで三十メートルはあるだろう。よほど馴《な》れたものでも、何かにつかまらなければ眼がくらくらして覗いてはいられない高さだ。
 監督はあらためて一男少年の顔を見なおした。平然としている。わざと平気な顔をしているのではない。
「ひょっとすると親爺《おやじ》のいうのは嘘ではないかも知れない」
 監督はそう思った。それに彼は全体に一男の様子が気に入ったのだ。監督の満足そうな眼つきでそれが分かる。
 そこで平吉はすかさずもう一度頼み込んだ。
「岸本さん、頼みます。使ってみてやって下さいよ」
 監督は、「うん」と曖昧《あいまい》な返事をしてなお考えている様子だったが、やがて考えがきまったと見えて、平吉にいいつけた。
「山田を呼んで来てくれ」
 山田というのは平吉の組の職工頭《しょっこうがしら》だった。
 山田が来ると監督は一男をひきあわせた。
「石山の伜《せがれ》だそうだ。この間見習が一人いるように言っていたが、使ってやっ
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