と並んで立っていた。
 監督の眼を追って、頭の上を見上げた一男の顔からも血の気《け》が消えた。
 十五メートルもあろうかと思われる、途方もなく大きな鉄の梁《はり》が、起重機から、わずかに一本の鎖で危く斜に支《ささ》えられて、ふらりふらりとさがっているのだ。どうした間違いか、もう一本の吊鎖《つりぐさり》が外れたのだ。その拍子《ひょうし》に、人夫たちのたぐり寄せていた引綱《ひきづな》も、彼等の手からぐいっと持ってゆかれて、すべり落ちてしまったのだ。平均を失ったその鉄の梁は、今にもずるずると滑《すべ》って、骨組だけの八階建のその大建築を、てっぺんからぶち抜いて、がらがらと落ちて行きそうだった。
 早くなんとかしなければ――だが、その時一男少年は思わずぐっと唾《つば》をのみ込んだ。彼は一人の職工が一番高い梁の上にまたがったまま、ぐったりとうつぶしているのを見つけ出したのだ。外《はず》れた鎖《くさり》のさきが、大きく揺れる時彼の頭を撃ったものに相違《そうい》ない。彼は明らかに気を失っている。その上、彼が跨《また》がっている梁の片端は、さし込んであった支柱からぐいと外れている。吊った鎖が外れた途端
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