を買って広告で就職口をさがしてやろう。見つけるといったら見つけずにはおかないから――
一男は、縦横に組み上げられた鉄材の間から、遠く澄んだ空へ眼を放《はな》った。上総《かずさ》房州《ぼうしゅう》の山波《やまなみ》がくっきりと、彫《きざ》んだような輪廓《りんかく》を見せている。品川の海に浮かんでいるお台場《だいば》が、一つ二つ三つ、五つ六つ並んで緑色の可愛《かわい》い置物のようだ。銀座、芝あたりの町は小人島《こびとじま》のようだし、芝浦の岸壁《がんぺき》に碇泊《ていはく》している汽船はまるで玩具《おもちゃ》だ。すぐ近くの日比谷公園は、飛行機から見下《みおろ》すように、立樹《たちき》も建物も押しつぶされたように平ったく見える。
風がさわやかに吹いていた。
「なアに、なんとかなるさ。ならなきゃして見せるまでだ」
彼は急にはればれとした気持になって、シャツの襟《えり》をはだけて日にやけた胸を出した。まるで海へ帰ったようだ。
その時、うしろに立っていた岸本監督は、一男が無造作《むぞうさ》に歩き出したのを見て、はっとした。少年は今まで立っていた板張《いたばり》から出はずれると、ことさらに手
前へ
次へ
全22ページ中11ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
吉田 甲子太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング