ばんてん》、盲縞《めくらじま》の股引したる連中多く、むさぐるしき白髪の老翁の、手細工に花漆をかけたという風の、竹帽子を被れるも見え、子供も三四分一は居たりしならん。獲物の獲物だけに、普通の小魚籃《こびく》にては、役に立たざる為めか、或は、一時の酔興に過ぎざる為めか、魚籃の用意あるは少かりし。たヾ、二尺五六寸有らんかと思はれし、棕櫚縄《しゅろなわ》つきの生担《いけたご》を、座右に備へし男も有りしが、これ等は、一時の出来心とも言ひ難く、罪深き部類の一人なりしなるべし。

 万歳の声

 平日、焼麩《やきふ》一つ投ずれば、折重りて群れを成し、※[#「口+僉」、第4水準2−4−39]※[#「口+禺」、第3水準1−15−9]《けんぐう》の集団を波際に形作る程に飼ひ馴らせる鯉なれば、之を釣り挙ぐるに、術も手練も要すべき筈なく、岩丈《がんじょう》の仕掛にて、力ッこに挙げさへすれば、寝子《ねこ》も赤子《しゃくし》も釣り得べきなり。目の前なる、三十歳近くの、蕎麦屋の出前持らしき風体《ふうてい》の男、水際にて引きつ引かれつ相闘ひし上、二尺|許《ばかり》のを一本挙げたりしが、観衆|忽《たちま》ち百雷の轟く如
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