だに無く、黒山の人垣を築けり。常には、見世物場の間に散在して営業する所の「引懸釣」、それさへ見物人は、店内に充溢するに、増して、昨日|一昨日《おととい》までは礫一つ打つことならざしり泉水《せんすい》の、尺余の鯉を、思ふまゝに釣り勝ち取り勝ちし得べき、公開? 釣堀と変りたることなれは、数《す》百の釣手、数《す》千の見物の、蟻集麕至《ぎしゅうくんし》せしも、素《もと》より無理ならぬことにて、たゞ、盛なりといふべき光景なるに呆れたり。
竿持てる人々
中島に橋、常に、焼麩《やきふ》商ふ人の居し辺は、全く往来止めの群衆にて、漁史は、一寸《ちょッと》覗きかけしも足を進むべき由なく、其のまゝ廻りて、交番の焼け跡の方に到り、つま立てゝ望む。
東西南北より、池の心《しん》さして出でたる竿は、幾百といふ数を知らず、継竿、丸竿、蜻蛉《とんぼ》釣りの竿其のまゝ、凧《たこ》の糸付けしも少からず見えし。片手を岸なる松柳にかけたるもの、足を団石《だんせき》の上に進め、猿臂《えんぴ》を伸ばせる者、蹲踞《そんきょ》して煙草を吹く者、全く釣堀の光景|其《そ》のまゝなり。
竿持てる者には、腹がけに切絆天《しるし
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