釣好隠居の懺悔
石井研堂

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)鱸《すずき》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)四百目|許《ばか》りなる

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「虫+糸」、175−上−10]《す》

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)くつ/\
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 中川の鱸《すずき》に誘《おび》き出され、八月二十日の早天《そうてん》に、独り出で、小舟を浮べて終日釣りけるが、思はしき獲物も無く、潮加減さへ面白からざりければ、残り惜しくは思へども、早く見切りをつけ、蒸し暑き斜陽に照り付けられながら、悄々として帰り途《みち》に就けり。
 農家の前なる、田一面に抽《ぬ》き出でたる白蓮の花幾点、かなめの樹の生垣を隔てゝ見え隠れに見ゆ。恰も行雲々裡に輝く、太白星の如し。見る人の無き、花の為めに恨むべきまでに婉麗《えんれい》なり。ジニアの花、雁来紅《がんらいこう》の葉の匂ひ亦、疲れたる漁史を慰むるやに思はれし
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