、其の機を待てども、封鎖厳重にして、意の如くならず、時々の欠伸を咳に紛らし、足をもぢ/″\して、出来得る限り忍耐したりしも、遂に耐《こら》へられずして、座蒲団を傍に除《の》け、
『車を待たせて置きましたから…………。』
と辞して起たんとす。主人は、少しも頓着せず、
 主『僕も、車を待たせて、釣ツたことあるです。リウマチを病んでた時、中川の鮒が気になツて堪らず、といふて往復に難義なので、婚礼の見参と、国元の親爺の停車場《すていしょん》送りの外は、絶えて頼んだことの無い宿車を頼んで、出かけたです、土手下に車を置かせ僕は川べりに屈んで竿をおろしたでせう。
 主『初めの内は、車夫が脇に付いてゝ、「旦那まだ釣れませんか、まだ釣れませんか」と、機嫌《きげん》を取りながら、餌刺の役を勤めてゝ呉れたが、二三時間の後には、堤根腹《ねはら》に昼寝して仕舞ひ、僕は結句気儘に釣ツてたです。
 主『生憎《あいにく》大風が出て来て、※[#「魚+與」、第4水準2−93−90]《たなご》位のを三つ挙げた丈で、小一日暮らし、さて夕刻|還《かえ》らうとすると、車は風に吹き飛ばされたと見え、脇の泥堀《どぶ》の中へ陥《のめ》
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