生者とし、絶対の従属者とする。結婚は生の闘争に対して婦人を無能にし、彼女の社会的意識を根絶し、彼女の想像力を麻痺し、而して後その恩恵的保護を科する、それは真に人間品性に対する係蹄《けいてい》であり、モヂリ詩文である。
 若し母たることが女性の最高の完成であるなら、恋愛と自由以外に如何なる保護を必要とするであらう? 結婚は単に彼女の完成を蹂躙し、腐敗せしめる。結婚は婦人に対し『おまへが私について来る時にのみおまへは生命を産み出すであらう』と云はないであらうか? 若し彼女が母権を買ふに彼女自身を売ることを拒むなら、結婚は彼女を貶しめ、辱しめないだらうか? 結婚はたとへ彼女が憎悪と強迫によつて受胎することがあつても母権を裁可しないであらうか? 然るに、若し母たることが自由撰択であり、恋愛と、大歓喜と熾烈な情熱の結果であるなら、結婚は無辜《むこ》の頭上に荊※[#「くさかんむり/刺」、第3水準1−90−91]《けいきょく》の冠を置き、血文字にて私生児てふ恐るべき言葉を彫《きざ》まないであらうか? 若し結婚がその宣言するあらゆる諸徳を含んでゐるなら、母たることに反する罪悪は結婚を永久に愛の領土から放逐するであらう。
 人生の全般にわたつて最も強く最も深い要素である恋愛、希望と歓喜と至楽の先駆者、あらゆる律法と因習の侮蔑者、人間運命の最も自由にして最も力強き型成者なる恋愛――かくの如く全てを圧倒する力がなんでかの国家と教会から生れた雑草の如き結婚と同意義であり得よう?
 自由恋愛? まるで恋愛が自由以外のもののやうだ! 人間は沢山の智慧を買つた、けれど全世界の数百万人は恋愛を買ふことに失敗した。人間は肉体を征服した、けれど地上のあらゆる権力も遂に恋愛を征服することが不可能であつた。人間は全ての国民に打勝つた、けれどその軍隊は恋愛を征服することが出来なかつた。人間は精神を拘束した、けれど彼は恋愛の前には全く無力であつた。黄金の力が及ぶ限り綺羅を尽くした王位に高く座しても、恋愛が彼をよけて通れば、その人は寂しく哀れである。恋愛のある処は、最も貧しい小屋でも生命と色彩で温かく輝いてゐる。かくして恋愛は乞食を王者と化す魔力を有してゐる。さうだ、恋愛は自由である。恋愛は自由以外の如何なる雰囲気中にも住むことが出来ない。自由に於てのみ恋愛はそれ自身を充分完全に与へることが出来る。宇宙に於ける
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