如何なる律法も如何なる法廷も一度根ざした恋愛を土から引き放すことは出来ない。けれど、若し土地が不毛なら、結婚はどうして果実を収穫することが出来るか? それは消え行く生命の死に対する最後の絶望的闘争の如きものである。
恋愛は保護を必要としない。それはそれ自からの保護を有してゐる。恋愛が生命を生んでゐる間、愛情の欠乏の為めに子供が棄てられたり、飢えたり、餓死したりすることはない。私はこれが真であるのを知つてゐる。私は自分の愛した男によつて自由に母になつた婦人を沢山に知つてゐる。どんな子供等でも自由の母が与へることの出来るやうな注意と保護と献心とを享楽することはむづかしからう。
政府の擁護者は自由母権の到来を恐れてゐる、それはかれ等の餌食を奪はれることを心配するからだ。誰れが戦争をするのか? 誰れが富を造り出すのか? 若し婦人が小児の無差別な養育を拒むなら、誰れが巡査になり、獄吏になるのか? 種族、種族! と帝王や、大統領や資本家や、牧師が叫ぶ。婦人が堕落して単なる機械になつても種族が保存されなければならない――そして結婚制度は婦人の有害な性の目覚めに対する唯一の安全な扉だと云ふのだ。けれど奴隷状態を維持しようとするこれ等の暴虐な努力は無駄だ。教会の布告も、支配者の狂的攻撃も、律法の権力も無駄だ。婦人は最早病弱不具な、そして貧乏と奴隷の軛《くびき》を打破する力も道義心をも持たないやうなみじめな人間の生産に与かることを願はない。彼女はそれに引きかへ恋愛と自由撰択によつて生れ、育てられる少数のよりよき子供等を願望する。結婚の科するような強迫によつてではないのだ。わが似非《えせ》道学者等は自由恋愛が婦人の胸中に喚び覚した小児に対する深い義務の観念を学ばなければならない。滅亡と死のみを呼吸する雰囲気中に生命を産出するより寧ろ彼女は母権の光栄を永久に棄てるであらう。若し彼女が母になるなら、彼女の存在が与へ得る最深最善のものを子供に与へるべきである。子供と一緒に生長することが彼女の座右銘だ、かくしてのみ彼女は真の男と女との建設を助けることが出来るのを知つてゐる。
イブセンは彼が巧妙にアル※[#濁点付き片仮名ヰ、1−7−83]ング夫人を描いた時は自由の母のまぼろしを見てゐたにちがいない。彼女は理想の母であつた、彼女は結婚とそのあらゆる恐怖を乗り越した、彼女は自からの鎖りを打破して
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