オて男子は従来男性的の思想及び行動の様式に従つて各自にのみ任かせられ長年月の間女子が人道に貢献した新生命及び女子の深く美はしき感受性によつて創造せられたる新しき智力を浪費し来つた仕事の範囲に於て女子の勢力を奨励するであらう。
仮令へば同一事業に於てその夫の友として婦人の数が次第に増加してゆくではないか。彼等は相互に相提携し補助して彼等一人にして能ふより更らに以上の仕事を完成して行くのである。この協力が恋愛を通じて行はるると同時に新しき思想を有する男女は最早恋愛をもつて他の目的を達するの手段と見做すことは出来なくなつて来る。彼等は恋愛をもつてそれ自からを目的として努力せらるべきものと考へる様になる。何故なれば彼等は自己の恋愛をもつて最早完成せられたりと感ずることが出来ないからである。他の全ての場合に於けるが如く恋愛に於ても彼等は常により高き程度に到達せんと欲してゐるからである。
恋愛が女子の場合に於けるが如く男子にあつて全くその存在を充実せしむるものではないと男子は屡々主張するがそれは誠である。何故なれば男子は自然の要求にせまられて恋愛以外に人生の変化を求めるものである。其処に活動と創造とに対する男子の本能が絶えず新しき目的を発見するからである。然るに女子にあつてはその力が等しく内部に向ふのが自然である。
其処に女子は不変の法則によりて母としての最高なる活動の範囲を発見するのである。『男は単に愛すのみ。されど女は愛そのものなり』と詩人が云つてゐる。若し男子がこの点に於て女性的となり、女子が男性的になつたとしたなら性愛の精神的状態である対照は消滅してしまふ、女子がその男子に愛せらるゝ『女らしきこと』とはその内部に向ふ性質を指していふのであり、男子が女子に愛せらるゝ『男らしきこと』とはその外部に向ふ性質を指していふのである。若し大多数の女子が安静なる状態にて生の源泉に留ることを願はず男子と共に全ての海洋を航海せんと欲する時は性の対照はその調和を欠き忽《たちま》ち単調なるものと化し去るであらう。
女子がこれを自覚する迄は仮令へ数万の女子が男子の得意とする仕事をなし能ふとも一方に於て人生と幸福の更らに偉なる事業なる人類の創造と心霊の創造とを閑却し若くは未成に終らしむるが如きことあらば社会にとつて、それが何等の利益でもないといふことが主張されなければならない。これ等の事業を適当に完成するには、女子は男子と同等なる権力を要求するのである。而して女子がこの権利を獲得するまでは『女性主義《フェミニズム》』は尚ほなすべき仕事を有してゐる。併しながら女子が選挙権――単にその狭き政治上の意味に於てのみならず、一般の選択権といふ意味に於て――を得るに準じて彼等はそれを広き人生の舞台に向つて使用する事を学ばなければならない。彼等は女子の力が『秤《はか》るべからざる』価値の創造せらるゝ領域にありて最大なるものであることを学ばなければならない。その価値はたとへ数字に表はさるること能はずとも人道《ヒューマニティー》を改善する上に最も功力多きものである。若し自からの小児が乳母部屋に於て鞭韃せられ或は相互に相打つが如きことあらば平和会議に関して喋々するも婦人にとつてそれが何の益に立つであらう。もし婦人にして哀れむべき独身の境遇より一個の男子を救ふこと能はず、而して男子の生活に調和ある結合を齎《もた》らすこと能はずとせば徒らに倫理会議を口にするもそれが何の益にたつであらう。女性主義はゲーテの二個の格言中に極めて適当なる評言を発見する。『霜を以て自からを暖めんが為め太陽より逃れんとするは愚なり。』『智慧の第一条件は何物をも見せかくることなく、全てのものとなるにあり』と彼は云つてゐる。
心霊の価値の生ずる処に太陽はその熱をふりそゝぎ、心霊の意とせざる功利の創造せらるゝ処を霜は支配してゐる。
心霊の価値は感情の世界に発見せられなければならない。亜米利加《アメリカ》に於ける近代の革新策は多くの婦人を迷路に導いたことは誠に悲しむべきことである。彼等はかの革新策なるものが恰かもかの羽根のみ華麗にして歌ふこと能はざる亜米利加の鳥の如きものであるといふことを洞察することが出来なかつたのである。亜米利加の精神は未だ一般に楽耳を欠いてゐる。それは人生の全音と半音とを識別することが出来ないのである。亜米利加に於ける数万の婦人が団体的事業にその家庭と小児の世話を任かせ自からは各自の職業或は商売に従事してゐるのは一見如何にも社会にとつて有益であるかの如く見ゆる。然し人生を向上せしむるは実は功利の如きものに非して完全なる人間である。故に行政及び社会事業を通じてなされたる全て外部の改善は畢竟何等の功果をも残さないのである。何故なれば男子も女子も真に有益なる事業とは道徳的価値を有する範
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