轤黶A或は早く疲弊し尽し再び復活することあるも、充分なる発展を見ること能はず、その目的は達せられずして終り、或は目的に向つて進むことあるも初より低き目的に向つて努力するが如き全てこれ等の原因は悉くかの不幸なる家族生活に起因するものであるといふことを深く考へたものがあるだらうか。又、一般の男女が性的生活以前の事に対して、より多く真摯なる注意を払ふことを教へられなかつたなら、そして結婚以前の事に対して何等の教育をも授けられず、又、彼等の恋愛以外の他の大なる生活上の要求に対する権利を社会から与へられなかつたならば全てかくの如き精力の社会的浪費は除かれたであらうと云ふことを静かに考へてみた人があるだらうか。
恋愛の幸福を感ずることなくして無数の人間が高雅なる美しき生活を送つてゐるといふ事実は仮令彼等が更に進んでその幸福を味ふともそれ以上に美しく強く――故に社会に対しては更に必要なる――生活することは出来ないといふことを証拠立ててはゐない。一方に於てかくの如き幸福を欠如せるにも関はらず、尚ほ暖かき感情と智慧とを有する人々があると同時に他方に於ては未婚の結果或は既婚の結果として感情氷結し或は自暴自棄に陥つた人々がゐるのである。而して多くの人々の斯くの如き結果に到達するはかの恋愛の運命が時に与ふる斥けがたき悲劇のためではなく旧時代が新時代に対し人生に於ける恋愛の価値は極めて小なるものであるといふ見解を強ひた為めである。恋愛が『神聖なる生産』の必然的基礎として宗教的尊敬を以て取扱はるる様になれば、現在社会の救済事業の大部分は無用となるであらう。且て人間堕落の原因と云はれた恋愛が人間の幸福の一手段と変ずる時は厭世、失望、堕落の数は遙かに減ずるであらう。現在に於て劣情の牢獄の中に禁錮せられてゐる曾つて偉大であつた力が性的生活を通じて無用の苦しみから開放せらるる時は現在社会にて浪費されてゐる種々なる勢力が人生の他の方面に活躍するのみならず恋愛が覚醒し緊張する新しき諸勢力が更らにその上に加へられるであらう。
併しながら私の恋愛といふのは人格的の偉大なる恋愛を指すのである。それは人生の無限の相を開放して人々に示すものであつてその変化を消滅せしむるかのふざけたる小さき恋の如きを云ふのではない。その恋愛は先づ第一に自己の存在と他の人々の存在が真に偉《おお》きく計りがたいものであるといふ感じを呼び醒ますものである。それは家庭に於けるが如くその個人として又社会としての事業中に現はれたる他人の人格に対する恋愛を意味するものである。それは又人生の目的に関する永遠の疑問に現はるると同時に歓楽の際にも現はるる人格の尊敬をも意味するのである。かくの如きことを知らざる男女は到底人格的恋愛のなにものなるかを覗ふ事をすら許されざる人々である。かくの如き恋愛に浸れる人は自己の感情以外に何物をも省みるが如きことなかるべしと考ふるが如き人は真にかくの如き人を解せざる人である。人は徹頭徹尾それに由つて生活し又存在せるものに関して最も少なく語り又考へるものである。健康なる人は自からの健全なることに関して語らず、無邪気なる人は自己の無邪気に関して語らない。
然しながらその健康と無邪気とが自から其人を通じて語り、或は考へる。
人格的恋愛がその力を発揮することを許され、ラスキンが国民の真の富と呼んだ多くの健全にして充実せる幸福な人間が創造せられる時は、人生に横はる最大なる根本的矛盾の一つなる男女間の矛盾を調和せしむることが出来るであらう。其の時は又一般の期望は開展せられ様々の痛ましき矛盾は調和せられ人道《ヒューマニティー》は現社会が未だその一歩をふみ出せしに過ぎない高峰に達し初むるであらう。恋愛は早晩その失墜せる権威と名声とを回復しなければならない、何故なればそれは私が既に云つた様に人類出産の不断の連鎖に対する最大な武器である。それによつて時代は時代を追ふて肉と霊との様々なる力を継承し移殖する。その力は次第に高尚となり、美はしき平衡を現はし男性と女性とは愈々《いよいよ》堅く結び付けられるのである。
併し恋愛は既に進化して男性及び女性の諸性質を調和するに必須なる要素となつた。かくして吾人は社会問題の解決に協力する多くの男女を見るのである。然かし彼等の協力は通例単に男性及び女性の能力の機械的結合に過ぎないのである。勿論その協力は次第に組織的に赴むき男性と女性とは益々人生のあらゆる目的の完備に向て結合せんとしてゐる。結婚は恋愛の継続ならざるべからずといふ近代婦人の意志は男女間の精神的交通及びその日常生活が単に家庭生活の範囲以上のものを抱括しなければならないといふことを意味してゐるのである。それは又、男女各自が彼等の日常生活外の舞台に於ける人格の発現を愛することを意味してゐるのである。かく
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