ヘに於て行はれ精神的状態の進歩を計るものであるといふことを理解してゐないからである。
種々なる形式が精神状態の上に影響することは事実である。然しながら精神状態の方は更らに著しく形式の上に影響を与ふるものである。結婚、母の権利、小児の保護等に対して如何に最善の形式が現はるゝとも女子がかのシユライエルマヘルによつて与へられたる十誡を遵奉すること能はざる間は無効に終るであらう、若しその十誡にして実行されたならば人道を内部より外部に渡つて一新する事が出来るであらう。その十誡中に含まれたる意義は左の如きものである。
汝は一人の恋人より他の恋人を有すべからず、又友人に対してはかの恋人に対する場合に於けるが如く風情を弄し或は強ひて彼を喜ばさんとするが如き態度をとるべからず。
汝は汝自身に対し或は汝自身の影像又は他の影像に従つて何等の理想をも創造すべからず、汝は汝の夫が如何なるものにもせよ又如何なる性格を現はすにもせよ、只管夫のためにのみ夫を愛せよ、自然は厳粛なる復讐者なり、少女の空虚なる羅曼主義《ローマンチシズム》は成熟せる婦人の情緒の第三若しくは第四期に至る迄罰せらるべし。
汝は汝の恋愛の神聖を汚すべからず、何人にまれ利益のために自己を犠牲とするは――仮令へ母たるべき律法上の権利のためである場合に於てすら尚ほ且つ美はしき感情を失ふものなることを記憶せよ。
汝は後に破らるゝが如き結婚の約束をば決してなすべからず。
汝は自から同等の程度を以て愛を注ぐ能はざる男子に愛せられんことを願ふこと勿れ。
汝は野蛮なる現今の慣習に美はしき衣を着せその言行に於て虚偽の証明をなすべからず。
汝は教育と芸術と智識と高貴なる心とを求めざるべからず。
男女平等論を説くはまだしも、男子に比して女子の劣等なることを証拠立てんと試むる程無用なものはない。反省的生活は男子よりも女子の場合に於て遙かに強いといふことは男子の力が他の方面に発揮せらるゝと同じく必要なることである。男女の差異が自然的生活に於て欠くべからざるが如く又修養的生活に於ても最も根本的に必要なのである。実際に於て知らず/\女子は男子に男子は女子の仕事に協力してゐるのである。第三性といふが如きものは決して創造の事業に容喙《ようかい》することは出来ないであらう。女子の精神が組織的に男子の事業と理想に結び付けられ、男子の精神が又女子の事業と理想とに結び付けらるゝに従つて精神的に豊富なる状態が次第に実現せらるゝであらう。男子の事業は比較的人生の個人的方面に従属し生存努力となり分化となつて人生の進歩と革新とを促がしてゐる。これに反して女子の事業は人世の社会的方面に属し団結的粘着力を現はしてゐる。女子はビヨルンソンの云つた様に『次第に人生に入込み来つた』暖かき感情のよりよき掩護《えんご》者である。かくの如き議論はかの甲乙の差別によつて天秤の価値を上下するが如きものではない。
亜米利加主義は人生の全ての問題を極めて低級な立場から論じてゐる。而して婦人問題の如きも其の主眼とする処は自己維持にあると見做してゐる。自己維持といふことは男子にも女子にも単に権威ある人間の存在に対する初歩の外面的先要条件である。未来の社会主義がとるべき最も必要なる第一階梯は各人の最も得意とする仕事によつて自己維持の機会を万人に与ふることである。かくの如くして始めて各自の仕事はその人の幸福を増進するものとなるであらう。この理由から云つてもかくの如き仕事は社会に最大の価値を齎らすものである。而して今より更らに深き修養により、これらの事に対する吾人の洞察力が益々深くなり行く時は現今に於て社会が陸軍と海軍とを支へ行くが如く婦人を維持して行くことが社会にとつて極めて自然なることゝ見ゆる様になるであらう。何故なれば女子が新しき時代の教育者たる時は彼等は最大なる社会的職務のために尽瘁《じんすい》してゐるからである。若し新社会にしてベートウベン或はワグネルを機関師として使用するが如き事あらばそは極めて悲しむべき現象と云はなければならない。而して若し又、その社会にして多くの母を児童心霊の教育者たらしむるかはりに家庭外の仕事に従事せしむるとせばこれ又等しく精力の大なる誤用である。然るに大多数の母たる人々は徒らに風琴を掻き鳴らすことが真の音楽に対して全ての芸術が学ばれなければならないといふ事を単に証拠立つるが如き教育法を用ひてゐる。併しながらそれは女子の精力が更らに完全なる人類を教育することより他の仕事に適用せらるゝ時、よりよく利用せられるであらうといふことを証拠立てゝはゐない。かの人類教育といふ仕事に対する現今の全ての努力は単に未来の準備であり、未だ理解せられざる一般の連絡である。更らに完全なる人種とは更らに精神的なる人種である。更らに精神的なる人
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