、西の内を張った※[#「木+需」、第4水準2−15−67]子障子が、格の間に嵌められてあった。然し、その重い網扉がけたたましい車金具の音と共に開かれ、鉄気《かなけ》が鼻頭から遠ざかると同時に、密閉された熱気でムッと噎せ返るような臭気を、真近に感じた。前方は二十畳敷程の空室で、階下の板敷と二階の床に当る天井の中央には、関東風土蔵造り特有とも云う、細かい格子の嵌戸が切ってあった。そして、双方の格子戸から入って来る何処かの陽の余映を、周囲の壁が、鈍い銅色で重々しく照り返していて、またその弱々しい光線が、正面の壁に打衝《うちあた》ると、そこ一面にはだかっている十一面千手観音の画像に、異様な生動が湧き起されて来るのだった。所が、その画像を見詰めながら、法水が一足閾を跨いだとき、右手にある階段の上り口に、それは異様なものが突っ立っているのに気が付いた。その薄ら茫やりとした暗がりの中には、地図のような血痕の附いた行衣を着て、一人の僧形をした男が直立している。そして、その男は、両手をキチンと腰につけたまま膝をついていて、正面に烱々たる眼光を放っているのだ。然し、眼が暗さに慣れるにつれて、更に驚くべきも
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