れた、異様な血曼荼羅を繰り拡げて行く事になった。
 法水は庵主盤得尼の切髪を見て、この教団が有髪の尼僧団なのを知った。盤得尼は五十を越えていても脂ぎって艶々しく、凡てが圧力的だった。見詰めていると、顔全体が異様に昂って来る感じがするけれども、そこにまた、冷酷な性格を充分満せないような、何んとなく秘密っぽい画策的な、まるで魔女のような暗い影が揺めいているようにも思われるのだった。間もなく、法水は案内されて、本堂の横手口にある室に入った。そこは、左右に廊下を置いていて、書院一つ隔てた外縁の※[#「木+需」、第4水準2−15−67]子窓からは、幽暗な薄明りが漂って来る。入ると、盤得尼は正面の扉を指差して、
「此処で御座います」と男のような声で云った。「夢殿と申しまして、以前は寺院楽と黙行の修行所に当てて居りましたのですが、最近では此処で、推摩居士が祈祷と霊通を致すようになりまして……」
 そこには、黒漆塗の六枚厨子扉があって、青銅で双《ならび》獅子を刻んだ閂の上には、大きな錠前がぶら下っていた。盤得尼が錠前を外し扉を開くと、正面には半開きになっている太格子の網扉があって、その黒い桟の内側には
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