中なんだよ」と法水が掌を開くと、その中から、四寸程の頭髪の尖を、巧妙な針に作ったものが現われた。「所で、僕がどうして発見したかと云うに、普光が笙の鳴っている間に聴いたと云う、妙な音響からなんだ。板の間を踏むような、ドウと云う音が二度ばかりして、その二度目の直後に、ブーンと唸るような音が聴こえたと云ったね。では、仮りにそれを、太鼓の両側の皮を、内側から強く引緊めて置いて、全然振動を、起させないようにしたのを打ったとしよう。そして、二度目にその緊縛が解けたとしたら、凹みの戻った振動でもって、恰度そう云うような唸りが起りはしないだろうかね。案の状、その思い付きからして火焔太鼓を調べて見ると、果して其処に、三つ針穴程の孔が明いていた。つまり、そのうちの二つは、皮の両側を引き緊めた糸の痕であって、またもう一つのには、二度目の撥で糸が切れ、両側とも旧《もと》の状態に戻った時に、その反動を利用する、簡単な針金製の弩機が差し込まれてあったのだよ」
そうして、浄善の死因に関する時間的な矛盾が一掃されてしまうと、法水は再び、盤得尼に云った。
「とにかく、その発見からだけでも、貴女に対する疑惑は稀薄になり
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