ます。つまり、智凡が見たと云うのは、笙を吹いていた犯人の影と云う事になりますが、さてそうなると、浄善の屍体を動かした犯人が、その場は三階へ隠れたにしてもです。一体どうして、それから、あの場所を脱出したものか――問題は再び密室で行き詰まってしまうのですよ」
「それが取りも直さず、孔雀明王の秘蹟では御座いませんか?」と盤得尼は、透かさず眉を張って尚も執拗に奇蹟の存在を主張するのだった。それを、法水は冷笑で酬い返した。
「然し、この点だけは、誤解なさらないで頂きたいのです。貴女にしても、ただ智凡尼の推測から解放されたと云うだけで、つまり、謬説から遁れたと云う事は、正しい推定から影を消したと云う事にはなりませんからね。大体他の三人にしたところが、当時の動静を、的確に証明するものがない始末ですから。いずれ、僕が密室を切開した際に、改めて四人の顔を、膿の上へ映してみる事にしましょう」
 盤得尼が出て行ってしまうと、法水は衣袋《ポケット》から一枚の紙片を取り出した。それには、次のような文字が認められてあった。
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黄色い斑点の中に赤黒い蝙蝠《こうもり》――盤得尼
全部暗褐色の瓢箪
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