その時まだ生きていたか、それとも屍体が動いたか――だよ。けれども、強直が来ない前は微動する訳もない筈だぜ」
「そうです。生きていた浄善は、その後に殺されたのですわ」智凡尼はグイと刳るような語気で云った。「だって、推摩居士が魔法のような殺され方をしているのを、眼前に見ながら、その側で凝っとしていると云う訳はないでしょう。それに、私がそれからすぐ飛び出して、その旨を庵主に告げると、庵主は夢殿に入ったきりで、暫く出て来なかったのですからね。私と寂蓮さんはその後に見に行ったのですが、その時は、浄善さんの姿勢が変ったと云うだけの事で、他にはこれぞと云う異状も御座いませんでした。つまり、浄善さんが推摩居士を殺して、その浄善を庵主が殺したのですわ。此の論理には、ともかく中断が御座いませんわね。多分それで、庵主は一番いい夢を見る、阿片を造る積りだったのでしょう」
 そして、智凡尼はゲラゲラ笑いながら、出て行ってしまった。法水も同時に立ち上った。
「僕は鳥渡経蔵を見て来るからね。君は、盤得尼から浄善の屍体に就いて、詳細な要点を聴取しといてくれ給え」
 それから一時間程経って、二度目の網扉の音がしたかと思
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