掛かっているだろう。肢鉤の方が上になっていて、右の方へ斜に横倒しになっている。所が、胴はその方向にはなくて、却って反対側に――肢から一寸許り離れた左の方で、これは、油の表面に浮かんでいるんだ。それから考えると、容器の辺《ぐる》りを、胴体が何周りかした事が判るじゃないか。つまり、還流が起った証拠なんだよ。大体油時計そのものが、頗る温度に敏感であって、夜中燈火兼用以外には使えない代物なんだ、だから、当然それに、陽が当った場合を想像しなくてはならんと思うね。つまり、それを一口に云うと、油の減量につれて、蚊の屍体が肢鉤のある点まで下って来たとき――その時、犯人は小窓を開いたのだ。そうすると、陽差が容器の下方に落ちて、熱した油が上層に向う事になるから、当然表面の縁に、還流が起らねばならないだろう。おまけに、油の流出が次第に激しくなって行くので、時刻が飛んでもない進み方をしてしまったのだ。だから支倉君、犯人が小窓を開いたのは、十二時四十分前後だと云えるんだよ」
「成程。然し、犯人が窓を開いた意志と云うのは、恐らくそれだけじゃないと思うね。或は、兇器を捨てるためにか……」
それを法水は、力のない笑
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