い声を立てて遮った。
「では、探して見給え――決してありっこないからね。梵字の形が、左右符合しているのを見ただけでも、とうに僕は、人間の手で使うものでない――と云う定義を、この事件の兇器に下しているんだ。それよりも支倉君、孔雀の趾跡が一体どうして附けられたか――じゃないか。たとえば、推摩居士を歩かせたにした所で、たかが膝蓋骨の、三角形ぐらい印されるだけだからね」
「すると、何か君は?」
「うん、これは非常に奇抜な想像なんだが、さしずめ僕は、推摩居士に逆立ちをさせたいんだよ。それも掌を全部下ろさずに、指の根元で全身を支えるんだ」
「冗談じゃない」検事は呆れたような顔になって叫んだ。
「所が支倉君」と法水は真剣に顔を引き緊め、一歩一歩階段を下りながら云い始めた。「大体、其処以外には、何処ぞと云って、推摩居士の肉体に理論上ああ云う作用を、現わす部分がないのだからね。と云うのは、第二関節以下しかない、推摩居士の右の中指と左の無名指に、所謂|光指《グランツフィンガー》が現われているからなんだ。その根元に弾片をうけて神経幹が傷付いているので、君も先刻見た通りに、指尖が細く尖って青白く光っているんだ
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