子扉には、当時もやはり錠前が下りていたのです。それに、智凡尼が入った時には、二階で笙を吹いている者がありました。ねえ法水さん、この夢殿は密室だったのですよ。密閉された室の中で、一体孔雀明王と供奉鳥以外に誰がいた事になりましょうかね」
密室、しかもその中で、大量の血が消え失せてしまっている――。流石の法水も、ハタと行き詰まって、まざまざとその顔には、羞恥と動揺の色が現われた。
二、火焔太鼓の秘密
盤得尼が去ってから、尚も三階の一劃を調べたけれども、そこには何一つ発見されなかった。そして、再び二階に下りると、法水は油時計を指差して云った。
「判ったのは、たったこれだけさ。一時十五分に発見した時消えていたと云う油時計が、何故二時を指しているか――なんだ。その気狂い染みた進み方からして、犯人が小窓を開いた時刻が判るのだがね」
「そうすると、多分消えたのは、金泥が散った時じゃないだろうか」
「うん、まずそうだろうと思うが……」と法水は気のない頷き方をして、「所で、問題はこの油容器の内側にあるんだが……、現に今も見る通り、除《と》れ易い足長蚊の肢が一本、油の表面から五分許り上の所に引っ
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