として続いて来たこの謎を、十九世紀の末になって、遂にジャストローが解いたのです。多分、聖痕と云う心理学用語を御存知でしょうが、あのフランス・カレッジの先生は、一人の田舎娘を見出して、それから聖像凝視が因で起る、一種の変態心理現象を発見したからなんですよ。で、そうなって………」と云いかけた法水の顔には、殺気とでも云いたいものが、メラメラと盛り上って来た。「そうなって、当時の瑞西《スイツル》を考えると、新教アナバプチスト派の侵入をうけていて、加特力《カトリック》の牙城が危胎に瀕していたのですからね。ですから、何んとはなしにその奇蹟と云うのが、司教の奸策ではないかと思われて来るのですよ。そうして、此の事件にも、私は奸悪な接神妄想《シュルティ》を想像しているのです」
 その間盤得尼は、ただ呆れたようになって、相手の顔を見詰めていたが、キュッと皮肉な微笑を泛かべて云い放った。
「そうしますと法水さん、その司教と置き換えられた私は、一体何処から入って何処から出た事になるのでしょうか。実を申しますと、今も入口の網扉を私は故意《わざ》と半開きにして置いたのですよ。あの網扉の音は河原までも響きますし、厨
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