》の火焔太鼓に寄った方が推摩居士の座になって居りまして、つまり、推摩居士に現われる竜樹の御言葉を、書院の中にある管の端から聴くので御座います。今日は、それが普光尼の番で御座いました」とそれに次いで、盤得尼は左の通り事件発生当時の情況を語り始めた。
――推摩居士に兆候が現われたので、盤得尼と浄善が夢殿の中へ連れ込み、盤得尼は油時計に、零時の目盛まで油を充たして点火し、夢殿を出たのが零時五分。そうすると、扉を出ると同時に笙が鳴り始めたけれども、火焔太鼓の音は聴こえず、その笙も二、三分鳴り続けたのみで、その後は一時十五分に、智凡尼が変事を発見するまで、物音一つしなかったと云うのである。尚、尼僧達の動静に就いて云えば、盤得尼が自室に、普光は書院に、寂連は遙か離れた経蔵に、智凡は本堂の飾り変えをしていたと云うのみの事であって……、更に、事件を境にして夢殿内に起っていた変化と云えば、小窓が開かれていた事と、油時計が一時三十分を指して消えている――と云う二つに過ぎないのだった。
以上の聴取を終ると、法水は再び動き始めた。
「それでは支倉君、床に付いている推摩居士の皮膚の跡を探すとするかな」
所
前へ
次へ
全59ページ中20ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング