は、ビルマ風の如意輪観音が半跏を組んでいる繍仏になっていて、顔を指している右手の人差指だけが突出し、それには折れないように、薄い銅板を菱形にして巻いてあった。そしてその下に、中央には、日の丸形の円孔が空いている、細かい網代織《あじろお》りの方旛が、五つ連なっていた。重量は非常に軽く一本が六、七百匁程度で、それが普通の曼陀羅より余程太い所を見ると、たしかに蓮の繊維ではなく、何か他の植物の干茎らしいと思われた。尚、盤得尼の云う所に依ると、始めから終りまで、結び目なしの継ぎ合せた一本ものだと云う事だったのである。然し、試みにその一つを、三階の突出床から、礼盤の前方にかけて張ってある紐に結び付けてみても、床から五寸余りも隙いてしまう。更に法水は、玉幡の裾の太い襞の部分を取り上げて、それを浄善の扼痕に当てがってみたが、形状が非常に酷似しているにも拘らず、太さも全長も、到底比較にならぬ程小さいのだった。法水は、他からもそれと判る失望の色を泛べて、それから悠ったりと室内を歩き始めたが、やがて火焔太鼓の背後の壁に、一つの孔を見付けて盤得尼に問うた。
「伝声管で御座います。礼盤の右手は浄善、左手《ゆんで
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