流れて行き、その点火に伴う油の減量に依って、時を知る仕掛なのである。が、その時は既に灯は消え、不思議な事に目盛は二時を指していた。そして、礼盤の突当りに掲げてある、「五秘密曼陀羅」の一幅を記せば、配置の説明の全部が終るのである。
尼僧浄善の屍体は、両眼を※[#「目+爭」、第3水準1−88−85]《みひら》き、階段の方を頭に足首を礼盤の上に載せて、四肢を稍はだけ気味に伸ばしたまま仰向けに横たわっていた。三十恰好で大して美しくはないけれども、その平和な死顔には、静思とでも云いたい、厳かなものが漂っているように思われた。それに、未だ硬直がなく、体温も微かに残っていたけれども、何より、二つの驚くべき跡が印されてあったのだ。その一つは四肢の妙な部分に索痕があると云う事で、各々上膊部の中央と、膝蓋骨から二寸許り上の大腿部に残されていた。それから次は、更に異様なものであって、咽喉から両耳の下にかけて、そこを扼したように見える、四本の華奢な指股様の跡が深く喰い入っていて、それが二筋宛並んで印されてあった。しかも、その四つが同時に行われたと云う事は、一つの血痕の上に各々の端が載っていて、そこが少しも乱
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