いないのだった。けれども、打ち倒れている四流の玉幡を見ると、それが、ところどころ僅か許り、金泥の斑点を残しているままで、殆んど赤裸に引ん剥かれ、曼陀羅の干茎が露き出しになっている。それからだけでも、この無数の片々が、以前玉幡の衣だった事は明らかであるけれども、一方、金泥の上には踏んだ跡がなく、曼陀羅の肌にも掻傷一つないと云う始末だった。一体、金泥は如何なる方法に依って剥ぎ取られ、そして散華が起されたのだろうか!
 法水は、金泥を一個所に掻き集めて、調査を始めた。床には血の点々が僅か残っているだけであったが、此処で、階上の室内に於ける配置を云うと……、中央には、階下から眺めた通りに格子形の嵌戸が切ってあって、その後方には、膝蓋骨の下部にビッタリ付くように作られてある、推摩居士の義足が二本並んでいた。前方には、竹帙形に編んだ礼盤が二座、その左端に火焔太鼓が一基、その根元に笙が一つ転がっている。二つの礼盤の中央には、五鈷鈴や経文を載せた経机が据えられ、右の座の端には、古渡りらしい油時計が置かれてあった。それは、目盛の附いた、円鐘形の硝子筒の中に油を充たして、中部の油が、長柄の端にある口芯まで
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