る。そこに横たわっている尼僧の屍体も玉幡も経机も、すべて金泥の花弁に埋もれていて、散り敷いた数百の小片からは、紫磨七宝の光明が放たれているのだ。ああ、まさにこれこそ、観無量寿経や宝積経に謳われている、阿弥陀仏の極楽世界なのであろうか※[#感嘆符疑問符、1−8−78]
階上は階下と同様無装飾の室だった。階段を上り切った右手の壁には、鉄格子を嵌めた小窓が一つあって、残り三方は得斎塗りの黒壁で囲まれていた。また、降り口の突き当りには、もう一つ階段が作られているのだが、それは屋根裏の三階に続いているものであって、その部分だけが切り込まれ、右側には、壁に添うた突出床が出来ている。と云うのは、三階の床が、所謂神馬厩作りだからである。従って、そこの床寄り約四分の一ばかりの間が、長方形に切り取られているので、振り仰ぐと上層の暗がりの中に、巨大な竜体のような梁が、朧げに光って見えるのだった。さて法水は、散り敷かれている金泥の小片を、一々手に取って調べたけれども、表面に血痕が附着しているのも、またしていないのもあって、その二様のものが雑然と入り乱れている始末なので、最早血痕の原型を回復する事は不可能に違
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