切られたって、もしかしたら、お母さまが殺されるまえにあったと、同じことじゃない?
 末起、ねえ、強くなって……。あんたは、ここでぐんと強くならなきゃアいけないわ。あたくしには、暗い家庭にいる末起がどんなだか分る……。考えると、こう離れているのがもどかしくなって来る……。だけど、もともと末起はあたくし、あたくしは末起なんだから、どんな、距離や遠さがあったからって、問題じゃないと思うわ。
 末起、ねえ、すぐに詳しい返事を頂戴。
 そのあいだ、咳や熱がたかまるお姉さまを思うなら、はやく、一刻も急いでね。
[#地から2字上げ]あなたの、方子より
    ………………………
 相良末起の、母親が殺されたのは、四年ほどまえのことだった。
 石町《こくちょう》で、大光斎といわれる大店《おおだな》の人形師、その家つき娘の、末起の母親おゆう[#「おゆう」に傍点]はそりゃ美しかった。色白で、細面ですらりとした瘠せ形で、どこかに、人の母となっても邪気《あどけ》なさが漂っていた。
 ところが末起にとってみれば生みの父親であるところの、さいしょの養子は間もなく死に、二度目の、いまの謙吉は事業慾がつよく、連綿とし
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