疼《うず》きを口にするのが常であった。がその時はそう云いながらも、何かそれ以外に、一つの憑着《ひょうちゃく》が頭の中にあるとみえて、いくつかの鳥や獣の、名前を口にするごとに、首を振っては、何ものかを模索している様子だった。それに、くらは歯のない口を開いて、時江の亢奮を鎮めようとした。
「そんじゃけど、喰うてみりゃ、また足《た》しにもなるもんじゃ。仔鹿《かよ》の眼もよいと云うぞ。時江、むずかりもいい加減にするもんじゃ。この一家にも、儂《わし》の呼吸《いき》があるうちに、もう一度、必ずええ日が廻《めぐ》り来るでな」
「いいからもう、そんな薄気味悪いものばかり並べないで」と母の言葉に押し冠《かぶ》せて、時江は泣きじゃくるように肩を震わせたが、「でも考えてみると、稚市さえ生まれてくれなかったら、こんなにまでひどい苦しみを、うけずにすんだかもしれないわ。あの病いの始めのうちは、肌の色が寒天のように、それはそれは綺麗に透き通ってくるんですって。それから、痺《しび》れがどこからとなくやってきて、身体中を所嫌わず、這い摺るようになると、今まで見えていた血の管の色が、妙に黝《くろ》ずんできて、やがて痺れ
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