させた悪病の印というのも、判ってみればなんのことはなく、むしろ愛着の刻印に等しかったではないか。しかし、そうしているうちに滝人の顔には、ちょうど子供が玩具を見た時のあれが、だんだんつのってきて、終いには、手足をバラバラに※[#「※」は「てへん+腕のつくり」、118−10]《もぎ》ってやりたくなるような、てっきりそれに似た衝動が強くなっていった。そして、手肢《てあし》をバタバタさせている唖の怪物を、邪慳《じゃけん》にも、かたわらの叢の中に抛《ほう》り出した。
「けれども貴方《あなた》、私には稚市《ちごいち》が、一つの弄び物《ジュージュー》[#ルビは「弄び物」に付く]としか見えないのでございます。ああ、弄び物《ジュージュー》[#ルビは「弄び物」に付く]――聴くところによりますと、奇書『腑分指示書《デモンストリス・エピストーラ》』を著したカッツェンブルガーは(以下五〇六字削除)。そうなって稚市という存在が、むしろ運命というよりかも、私という孤独の精神力から発した、一つの力強い現われだとすると、かえって、それを弄《もてあ》んでやりたい衝動に駆られてゆきました。そこであの低能きわまる物質に、私は
前へ
次へ
全120ページ中62ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング