、上層で絡《から》みあい撚《よ》りあっているので、自然柵とも格檣《かくしょう》ともつかぬ、櫓《やぐら》のようなものが出来てしまい、それがこの広大な地域を、砦のように固めているのだった。その小暗い下蔭には、ひ弱い草木どもが、数知れずいぎたなく打ち倒されている。おまけに、澱《よど》みきった新鮮でない熱気に蒸したてられるので、花粉は腐り、葉や幹は朽ち液化していって、当然そこから発酵してくるものには、小動物や昆虫などの、糞汁の臭いも入り混って、一種堪えがたい毒気となって襲ってくるのだった。それは、ちょっと臭素に似た匂いであって、それには人間でさえも、咽喉《いんこう》を害し睡眠を妨げられるばかりでなく、しだいに視力さえも薄れてくるのだから、自然そうした瘴気《しょうき》に抵抗力の強い大型な黄金《こがね》虫ややすで[#「やすで」に傍点]やむかで[#「むかで」に傍点]、あるいは、好んで不健康な湿地ばかりを好む猛悪な爬虫以外のものは、いっさいおしなべてその区域では生存を拒まれているのだった。
まことに、そこ一帯の高原は、原野というものの精気と荒廃の気とが、一つの鬼形《きぎょう》を凝《こ》りなしていて、
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